「冷静になって、周りを見て。…辛いのは宙夢だけじゃないよ。」
葵のひんやりとした手が俺の頬に触れる。
「叩いたりしてごめん。でも、このままだったら宙夢が壊れちゃう気がして。泣きたいなら、泣こう?我慢する必要なんてどこにもない。」
そう…俺は父さんが死んでしまった時から泣いていない。いや…泣けなかったんだ。事実を認めたくなくて。
ポタポタと頬を濡らすものがある。
それは俺の涙だった。
「有名な詩があるの。『涙と共にパンを食べなければ人生の味は分からない』。思いっきり泣いて、最後には笑おう?」
そう言って、葵は女神のように微笑んだ。
俺はこの微笑みを絶対に忘れないと思った。
この瞬間だったと思う。
葵が『ただの幼馴染み』から『特別な女』に変わったのは…。