藤野さんは私の家のひとつ左隣に住む方とでも申しておきましょうか。
私が仕事の都合で事で一人暮らしを始めた2年前からもう既にここに居た。
当初は近所付き合いなど皆無に等しかった私たちがここまで親密になったのには、たった一つが重なったとでも言えよう。
二つ交差点を右に曲がり27歩歩けば、私の仕事場が見える。
―――双葉出版―――
と、大仰に掲げられた看板に苦笑するしかない。
専ら、ここの支店は彼のためにあるようなものだ。
2階建てのこじんまりとした建物に足を踏み入れば、飛び交う挨拶。
『星川ー。こっちこい!』
挨拶もろくにしないまま上司が一喝する。
「はい!」