あたりを包み込む静寂に私は愕然とする。
音が遠退いた。





彼の声が聞こえない。





彼の声だけではない、
音の無い世界が私を襲う。




耐え切れなくなり、がむしゃらに叫ぶが、
それが声になっているのかすら自分には聞こえない。





彼は私を抱きしめ、背中を何度もさする。



彼の体温が私に伝わりだんだん冷静さを取り戻すとともに、彼の角ばった指が私の目元をそっと拭った。



……泣いてるの?




私は今、泣いているのか。





彼は私の背中と、足の裏に腕を回し抱き上げた。
もう、くしゃくしゃの私は彼の首におもいっきり抱きつく。




ゆっくり歩き始めた彼はどうやら自宅へ向かうらしい。
裏口から押し入るように入れば、外気の入り込んだ冷たい廊下を歩く。

リビングに座布団を何枚か見繕って私をそこへ横にする。


(だいじょうぶ)
彼の唇の形がいっている。



でも、聞こえない。