秋の涼しい風が由里の栗色のスカートを揺らす。木々の葉はそろそろ色付き始めるころで、公園の鳥や他の木々、花たちが紅葉するのを待っている。
穏やかな時が流れる上野公園を抜けると、伝統溢れる芸大に着いた。
芸大に憧れる人は多いが、実際に入れるのはごく一部。音楽だけで生活できるようになるのはさらにごく一部。
由里だって昔は芸大に憧れていたが、現実とは残酷なもの。憧れで終わってしまったが、今は取材やらでよく芸大に来る。
コンサートに行き放題なところとか芸大に来れるところは、この仕事の特権だと思う。
カメラマンと正門の所で手続きをして、構内に入る。様々な音楽が流れる中、待ち合わせ場所へと急ぐ。
エレベーターに乗り3階へといくとそこは個人練習室だった。
クリーム色の廊下の左右にドアが並ぶ。エレベーターを降りて右の手前から5番目。
由里は腕時計を見た。長針は3分のところを指している。部屋の中を覗くと、この前画面でみたイケメンがトランペットを吹いていた。
まあ、待ち合わせは13時だから、いいだろう。