「……すご。」
本当に驚くと普通過ぎる言葉しかでないものだ。
驚くと同時に可哀想だと思う。才能ある子って大変だろうな、と。
それは音大在学時から感じていたもので、中学校の吹奏楽部でサックスを始めた私はその面白さにどっぷりとはまった。
勉強せずに練習してたのもあって県内では上手な方だった。
将来のことなど特に考えず、ただもっと深く学びたいから音大に行った。
しかしそこには私のように軽い気持ちの人は少なく、周りから期待されそれに答えようと努力する子は多かった。そしてその子の精神的負担は大きく、途中で挫折した子も数少なくなかった。
もしかしたら神谷夏樹というこの青年も、そうかもしれない。
「あ、七瀬さんは神谷夏樹の取材担当ですか?」
私より2つ下で26歳の小沢愛梨が私のパソコン画面を覗いてきた。
フローラルの香りが鼻をくすぐる。ファッション雑誌も発売してる出版社だからか、音楽雑誌担当部でも服装等は自由だ。それを愛梨ちゃんは存分に活用してる。