「音大生なんて性格に難有るヤツばっかだろ。何をいまさら。」
思ってることをストレートに言いながらも言葉を選びながら話す斉藤に由里は心が落ち着くのを感じていた。
神谷夏樹と真逆だということも関わっているのだろう。相乗効果ってやつかもしれない。
「そうですけど、礼儀もなってなければひねくれてるし。まともな取材出来ませんでした。」
「あー。そりゃあ大変だなぁ。」
「記事が書けそうにないので、来週にある構内音楽祭の取材もしようと思うんです。」
「いいんじゃない?部長だって了承するだろ。」
「了承してくれなきゃ困るんですけどね…。」
水崎から帰る間際に貰った音楽祭のパンフレットを由里は眺める。
器楽科のトリに神谷夏樹の名前が記載されている。曲目は知らないが、明らかに短調の曲だろう。
「……七瀬。」
名前を呼ばれ、由里はパンフレットから顔を上げて隣の斉藤の方をみる。
すると斉藤もキーボードから手を離しこちらを向いていた。
「今日、呑みに行くか。」
「えっ?いいんですか?」
「今のうちに呑みに行かないと、行けなくなるしな。エネルギーを注入して頑張るぞ。」
「はいっ」
斉藤の大きな手が由里の頭をポンとする。