「紫苑(しおん)…」
ハラハラと声を押し殺して泣く。

そんな痛々しい姿を、僕は遠くから見ていた。
彼女の名は胡桃心愛(くるみ ここあ)と言う。

僕の…大切な人。

「…にゃあ」
「…また、来てくれたの…?」
すり寄る僕を見て、彼女は柔らかく微笑んだ。

僕は、ただのノラ猫。
数年前から、彼女にエサを貰い、時には遊んでもらう…ただの、猫。

「待ってて、今ご飯持ってきてあげるからね」
まだ涙の残る赤い目で彼女は言った。

「にゃあ」