「さんえん?」

「そう」

 パチンと指を鳴らして、珀の白い頬がほんのり桜色に高揚する。

 黄色人種の私は、珀の真っ白な肌を眺め、珀って半分外人なんだなと妙に感心した。



「見ザル、聞かザル、言わザル。結奈も知ってるでしょ?」

「まあ、聞いたことぐらいあるかな」

 日本人でプライドの高い私は、知ったかぶりをしてみせる。


「でも、どうしてそれが欲しいの?」

 ずる賢い私は、そうやって質問することで、三猿の全貌を明らかにしようと企んだのだ。


 珀はしばらく考えて、ゆっくり話し始めた。

「イギリスに住んでた時、グラン……じいちゃんと週に一回、水戸黄門のビデオを見てたんだ」

「水戸黄門~? 何で?」

 珀がまた考える。英語圏での出来事を日本語に変換しているのだ。


 珀はイギリスでの思い出を話す時、いつも変換に時間がかかった。

 珀の日本語が流暢になるのと反比例して、その変換時間は伸びていくようだった。



 気が付けば、私の家の会話はすっかり日本語に戻っていた。

 何故か、珀が、歌以外で英語を使いたがらなくなったからだ。