自然、天を仰ぐような格好になる。それ程聳える山は大きく、幾つかの雲を突き抜け、遥か彼方まで広がりを見せていた。
荘厳であり、神々しくもある。
もちろん『神々しい』は、ただの表現に過ぎない。
私は神様なんて絶対に信じない。
とはいえ、山に漂う異様なオーラが、私を惑わし魅了していることは確かだった。
この煉瓦の道を辿れば、いずれ頂上へ達するのだろうか? そこに、山神様とやらが祭られているのだろうか?
「山神様って、猿の神様なんですか?」
「さあどうかしら? ただ山神様は、一人の女性を待ち続けているみたいよ」
「一人の女性? 猿ではなく? 何のために待っているのでしょうか?」
立て続けに質問を繰り出す私に、彼女は「さあ」と首を傾げ、じっと私を覗き込んだ。
それから徐にガラスケースを開けると、中から朱色の猿を取り出した。
私の記憶に今も汚点として残っている、あの懐かしくも忌まわしい陶器製の三猿だ。
「もしかしたら、山神様が待っている女性って、あなたかもしれないわよ」