「美紀ちゃん、それは違うわ。母親ってね、つい、我が子を自分の分身だと思ってしまうの。分身だから、話をしなくても全て分かっているし、私の性格も、理解してくれていると思い込んでしまうの。私は人から褒められると照れてしまう性分だから、結奈が学校の先生に褒められたと聞くと、自分が褒められた気になって、気恥ずかしくて何も言えなくなる。だから、結奈をちゃんと褒めたことがないの。逆に私の欠点と似た個所は酷く気になってね。つい強く叱ってしまったわ。あの子は私に似て、女の子なのに家事が苦手でね。結奈の父親が出て行った原因は、私のズボラな部分に嫌気がさしたからだった。だから余計、そういう部分は直してやりたかった。それでつい、口うるさくなってしまって……美紀ちゃんのお母さんも、きっとそうなのよ」



「う~ん、そういうものかしら」


 まっすぐな首を傾げる美紀に、母が大きく頷いた。



「そういうものよ。でもね、この先美紀ちゃんに子供が出来たら、ちゃんと褒めて、しっかり話を聞いてあげなさい。うちは……美紀ちゃんも知っての通り、少し特殊な家庭環境にあったでしょう。だから、そういうことがね、結奈の話をちゃんと聞いてあげる事が、何だかいけない事のような気がして出来なかったの。私は、珀と結奈に同等の愛情を注ごうと必死だった。だから、絶対に結奈を優先してはいけないと、自分に徹底して言い聞かせたの。結奈もそれを分かってくれていると思っていた。でも……いつの間にか私とあの子の間には、深い溝が出来ていたわ。知らないうちに、あの子を傷つけていた。そのことに私は最後まで気付けなかった」


「おばさん?」