「結奈があなたをクラスのイジメから救ったのは、小学生の、それも小学一年生の頃の事なんでしょう? あなたはこうして、もう何年もの間、結奈を見舞ってくれている。この子が眠ってからほぼ毎日よ。それだけで、もう十分」


 私には、何の話か分からない。



「結奈ちゃんは私を庇ったせいで、しばらく皆から無視されていたんです。私はその時、何も出来なかった。ずるい話だけど、珀君が日本に来て、クラスの雰囲気が変わってから、私はやっと結奈ちゃんに近づいたんです。当たり前だけど、結奈ちゃんには嫌われていたと思います。だけど……だから今度こそ、絶対に逃げないし裏切らない。私は結奈ちゃんが目覚めると信じています。だから、その時まで式は挙げません」



「だけど、もしも結奈がこのまま……」

 母が喉を詰まらせた。




『もしも結奈がこのまま、目を覚まさなかったら』

 そう、言いたかったのだろう。美紀と呼ばれた女性は、大きく首を振った。




「大丈夫。そんなことあるはずがないわ。それにね、私と彼の馴れ初めを知っているのも、結奈ちゃんだけなの。と言っても、私が一方的に喋っていただけだけど。それに彼も、理解を示してくれていますから」


「……ありがとう。美紀ちゃんには本当に感謝しているわ。私は、教科書や新聞を読むことは出来ても、結奈の代わりに学校へは行けない。美紀ちゃんが、毎日学校での経験を話してくれて、年頃の子が読む雑誌も選んでくれたから、結奈も中学や高校生活を疑似体験出来たんじゃないかしら。本当にありがとうね。あなただって、御両親の転勤で一人おばあ様の家に預けられたりして、大変だったろうに」





『結奈ちゃん、あたし、おばあちゃん家に住むことになったの。だって、お父さんの転勤に付いて行ったら、こうやって結奈ちゃんのお見舞いに来れなくなっちゃうから』



 幼い女の子の声が、頭に響く。