「あ」

 音にビックリして珀を見た私は、そのまま硬直する。



「結奈? また珀君を」


 洗濯物を抱えた母が「きゃあ」と小さく叫び、珀に走り寄って行くのが見えた。
 珀の額から流れた血は、真っ白な肌を伝い、青紫色に変色した唇まで達している。


「大変だわ。病院」

「違うのお母さん。これはね」


 珀を抱え、私の隣を無言ですり抜ける母。


 その場にぽつんと取り残され、私は立ち尽くした。


 やがて恐ろしくなって家を飛び出す。




 蝉がやけに五月蠅かった。