「そんなはずないわ。だって、私はあの後、祖母の家に引き取られて、そこから中学校に通い、女子高を出て、専門学校で知り合った彼と、もうすぐ挙式するのよ」
私にはその記憶がちゃんとある。
もちろん、日常の全てを覚えているわけではないけれど、一日の中で特に印象的だった出来事は、その時の感情と共に残っている。
「それに、古典や数学の方程式も学習しているわ。もし小学五年生からずっと眠り続けているのなら、私はどうやって、その知識を得たと言うの?」
そう。日本史や生物学なんかも、それなりに勉強してきている。
珀と違って頭のよくない私は、あまり理解出来ていないけれど。
「もしかして、珀の冗談? また驚かせようって魂胆ね」
私は無理やり笑みを作り、珀に話しかけた。
「結奈、君は起きなくっちゃいけないよ」
「だから! 私は十分すぎるくらい、目覚めているわ」
何故だろう。イライラが治まらない。