(そうだ。珀の目は、私が前にかかった結膜炎かもしれない。あれは、すっごい目やにが出て、視界が悪くなったもんね)



 大丈夫。

 私は珀の見える場所まで歩み寄り、いつもの呆れ顔を作った。

「あんま夜更かししちゃダメじゃん。珀は病人なんだからさ~」





 大丈夫。

(ちょっぴり痩せたのだって、病院食のせいだ。病院食っておかゆと野菜だけだから)

 珀は濁った目を懸命に凝らし、「ごめん」と笑った。

「これからは、気を付けるよ。それより、林間学校は、どうだった?」




 珀の耳に嵌っている、小さな機械を見つめる。



 大丈夫。

(補聴器だって……隣のクラスにつけてる子いたし、あれは、良く聞こえる様にするための器械だから、入院患者とかは、きっとみんなつけるんだ)

「最っ高に面白い話がいっぱいだから、珀なんか、笑い過ぎでお腹引きつっちゃうよ」

「それは、やばいね」




 大丈夫。

 日光東照宮で、珀の病気が治りますようにって、何度もお願いしたんだから。


 他の子たちがお賽銭十円玉の時に、私は五百円玉でお願いしたんだから。

 神様だって、私の願いを真っ先に聞いてくれるに決まってる。



「あ、そうだ。いい物買って来たよ!」

 ショルダーバッグを外し、金属のチャックを開ける。

 中に入った小さな紙袋を取り出して、優しく珀の手に握らせた。




 珀が笑う。

「何だろう? 開けてみても、いい?」



 ほら、大丈夫。

 珀はこんなに元気だ。




「うん! 絶対ビックリするよ」