私たちの秘密の電話は、モノの五分で終わる。
ほとんど、私の一方的なお喋りだ。
一度、「珀の話も聞きたい」と言った私に、「病院の日常は平凡なんだよ」と、珀は残念そうな声をあげた。
だから私は、それなら自分の話で珀を思いっきり楽しませてあげようと、ちょっとしたハプニングを大げさにしてみたり、別にそんなに面白くない事をものすごく可笑しかったことにしたり、時々は、そうだったらいいな。と思うような妄想も現実にしたりした。
珀は終始楽しそうで、それが嬉しくて、私の話はいっそう誇張していった。
「結奈、そろそろ時間だよ」
「あ、やばい! じゃ、明日ね」
「うん」
受話器を戻した時の「チン」と言う音を最後に、家中が静寂に包まれる。
その瞬間だけはどうしようもなく寂しかったけれど、母が帰って来るまでに偽装工作をしなければいけないという使命感が私を救っていた。
すぐに気持ちを切り替え、ランドセルを二階に運ぶ。
珀との秘密の電話が始まったのは、私に病院禁止令が降りて丁度一週間後の土曜日の夕方だった。