細く続く、煉瓦の一本道。私は今、その入口に立っている。

 見上げると、雲の隙間から山と思しき物がちらりと見えた。道に僅かな傾斜があることから、きっとあの山へ続いていると予想する。

 霧雨でも降ったのか、足元に薄っすら靄がかかり、そのせいで、数メートル先はどうなっているのかまるで分からない。



 そのどこか秘密めいた部分が、私の好奇心をくすぐるのだ。



 魅了される。



 まるで私を手招きしているようだと思った。

 誘われるがまま、私は一歩、また一歩と歩き始める。噛みしめるように、踏み外さぬように。



 この先に何があるのかなんて、分からない。


 それに、私は山歩きに相応しいとは言い難い格好をしている。もしかしたら、すぐに引き返すことになるかもしれない。


 それならそれでいい。



 大きめのショルダーバッグを斜めに掛け直し、革製の茶色いロングブーツのヒールを少し気にしながら、緩やかな傾斜を登る。


 気が付けば、驚くほど大きな夕日が、私の背中を濃く、熱く照らしていた。


 やがて靄が晴れる。
 視界が鮮明になっていく。




「!」