「いやいや。この子には、これからショービジネスの荒海へ飛びこんでいく例のボーカルを陰で支える、って役目があるんだ。

ね、沙妃ちゃん」


ショービジネス?


荒海?


例のボーカルって……圭吾さんのこと?


トワさんの言ってることも全然分からなくてオロオロしていると、スーツの男性は眉間にしわを寄せた。


「そういうこと、ですか。

それは結構だが二人とも若いのが心配ですね。

ルックスがいい分、コブつきにでもなられた日にはファンへの対応が厄介だ。

以前そういう失敗をしたバンドもありましたしね。

くれぐれもそういう間違いは起こさないでいただきたい」




分からない。


ちっとも分からないけれど、イヤなことを言われたってことは分かる。




「まあまあ、まだ何も決まってないのに、堅苦しいことは抜きにしよう。

それにアイツもこの子も賢いから、そんな心配はいらないよ。

じゃあ、そろそろ上に……」


「ああ、そうですね。それでは失礼します、お嬢さん」


スーツの男性は、私にうやうやしくお辞儀をしてみせ、促されるまま控え室へと続く階段へ向かって行った。


ある程度遠ざかった背中を確認すると、トワさんはこちらへ身を寄せてきて。


「ごめんね、今日は上まで連れてってやれないんだ。

また、今度ね。

それから、今のヤツの言ったことは一つも気にしなくていいから」


そして私の肩を優しくぽんぽんと叩いて、控え室へと消えていった。