それから始まったライブは、今日もまた、うっとりとしている間に終わった。


私は圭吾さんの歌声を存分にいただいた幸せの余韻に浸る。


この前は音楽の神様の歌に聞き惚れたけれど、私はやっぱり圭吾さんは特別。


彼の声が、一番おいしい。




「沙妃ちゃん」


出口へ流れ出した人の波を前に立ち往生していたところを呼ばれて振り向けば、笑顔のトワさん。


……と、あのスーツの男性。


「トワさん、お久しぶりです」


「ああ、元気そうだね」


はい、と返事をしようと口を開こうとしたら。


スーツの男性がスッと前に出てきて、品定めするような視線で私をなめ回した。


そして。


「これは、なかなか良い素材ですね。

お知り合いということは、この子も音楽を?」


と、トワさんへ意味不明の問いかけ。


「いや、この子は普通の大学生だよ」


「普通の大学生とは、もったいない。

この雰囲気、長い髪も綺麗で武器になる。

その部門の担当者に是非とも薦めたい」




何を言ってるんだろう、この人。……