そんな綾乃の強い瞳が、ふと力を失う。
「あーあ。強がってみてもさあ、本当は、高校卒業したら音楽一筋でやりたかったなあ……」
おばさまは綾乃に条件を与えた。
音楽大学でピアノの腕を磨くこと。
それが嫌なら、何をしてもいい代わりに世間体のため、どこでもいいから大学だけは卒業すること。
綾乃は、後者を選んだ。
「でも、これが私の選んだ道だもん。頑張るしかないよね」
自分の選んだ道。
この言葉が、私の胸にちくりと刺さる。
うつむいていると、綾乃がおずおずと尋ねてきた。
「それよりさ。……沙妃のほうこそ、よかったの?」
改めて投げかけられた問い。
胸の痛みがひどくなる。
本当に、この大学を選んで、よかったの?
「……よかったんだよ」
私は、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
だって、隣に綾乃がいない人生なんて考えられない。
「……そっか」
綾乃は寂しそうに笑った。