もっと、もっと、話がしたい。


もっと、もっと、彼の声が欲しい。


でも時間は、あっという間に私達へさよならを連れてくる。




車が、我が家の門の前に停まった。


「今日は、ほんとにお世話になりました」


シートベルトを外すことも、名残惜しい。




今度のライブは、いつなんだろう。


また、どこかへ誘ってくれないかな。


映画館でも、どこでもいい。


圭吾さんと一緒なら、どんなことだって我慢する。




「それじゃ、失礼します」


寂しくドアに手をかけた、そのとき。




「沙妃ちゃん」




振り返ると、圭吾さんはフロントガラスを見据えたまま。




「今度、晴れたら、ドライブに行こうか」




そして少し間を置いて、「こんな小さい車だけど」とつけ加えた。




やっぱり、こっちは見てくれないけれど。


私は頬が熱くなるのを感じながら、「はい」とうなずいた。