結婚。
それは私にとって異世界の言葉だった。
世間では日常的に営まれている普通のこと。
私だってパパとママが結婚したから存在している。
でも私は、それが身近なものだと、どうしても思えない。
生きるということだけで精一杯なのに、そのうえ誰かを愛して、一生添い遂げると誓うなんて、思い描くことさえできない。
だから、こうして何気なく会話の中に現れた『結婚』の二文字に、私は戸惑い、うろたえた。
そんな私の心境など知らない圭吾さんは、結婚の話を膨らませていく。
「結婚式のときは、大変だった。
あんなに大雑把だった姉貴が、ドレス一つを選ぶのにだってナーバスになって。
やっぱり、女の子って、そういうものなのかな」
どうしよう。
私には、分からない。
苦笑いしかできないでいると。
「……こういう話、興味なかった?」
「あの、えっと……」
「いや、女の子は、こういう話、好きかなと思って」
圭吾さんも、困ったように笑っていた。
そうだ。
圭吾さんは寡黙な人なのに。
私のことを考えて、一生懸命話してくれてたんだ。