音量をしぼったスピーカーから、かすかに音楽が聞こえる。
このまま会話もなく家にたどり着いてほしい。
声を聴けば、我慢ができないから。
でも、圭吾さんは口を開いた。
「車、狭くてごめん」
「いえ、そんなこと……」
実際、私は狭いなんてちっとも感じていなかった。
だけど圭吾さんには、確かに狭そう。
シートに納まっている大きな体は窮屈そうで、ちょっとおかしい。
それを見たら、肩に入っていた力が抜けた。
「姉貴のおさがりなんだ、これ。
本当はでっかい車が欲しいんだけど」
「お姉さん、いるんですね」
「そっちは?」
「一人っ子です」
「そっか。でも大人になったら兄弟なんて、いてもいなくても変わらないよ」
「……どうして?」
「どっちかが自立したら、会う機会がないし、連絡もしないし」
「自立って、家を離れるってことですか?」
「そう。俺は高校出てからすぐに一人で暮らしてるし、姉貴も去年結婚して、実家を出てったよ」