「確かに、今は次のライブに向けて忙しいし、そうでなくても『Sir.juke』は普段からみんな忙しそうだけどさ……」
綾乃がふてくされながらバッグの中から何かを取り出した。
「メールする時間くらいはあると思うのよね。
これも、圭吾くんが沙妃に直接渡すことだってできるはずなのに」
差し出されたのは、前回と同様『Sir.juke』を含めた三組のバンドが参加するライブのチケット。
「ありがとう。
ステージの綾乃すごく格好いいから、またしっかり見るね」
「ほめてくれるのは嬉しいんだけど、他のメンバーも見てあげてね。
たとえば圭吾くんとか、圭吾くんとか、圭吾くんとか」
ほら、まただ。
以前にも増して最近の綾乃は「圭吾くん、圭吾くん」とうるさい。
「どうして綾乃は、そんなに圭吾さんの話ばかりするの?」
思い切って聞いてみると、綾乃はキッと私を見て言った。
「沙妃が、そんなんだからよ」
「……どんな?」
「こんなに言っても気づかないほど鈍感だからよ!」
「ど、鈍感……」