そんな私の憂鬱なんてどこ吹く風と言わんばかりに、おごそかな式はとどこおりなく終わった。
講堂をでると、耳をふさぐような喧騒と、人の群れ。
「サークルの勧誘だ。ドラマみたい!」
通りにあふれている先輩学生を見て、綾乃はうきうきしている。
でも。
「沙妃は……こういうの苦手だよね」
綾乃は何でもお見通し。
私は自分の姿を隠すために腰の下まで伸ばした長い髪の毛に包まって怯えていた。
人は苦手。
人混みは、もっと苦手。
「綾乃、サークルに入りたいなら、私のことは放っておいてもいいから……」
「何言ってるの、私はバンドが忙しくてサークルどころじゃありません!
こんなとこ早く抜け出して帰るよ!」
綾乃は私の手を引いて走り出した。
ほら、私は綾乃がいなきゃ生きていけない。
サークル勧誘の波をかいくぐりながら、私は少し高い位置で揺れる綾乃のポニーテールを、憧れと諦めの入り混じった瞳で見つめた。