見上げると目が合って、圭吾さんはすぐに顔を背けた。
今、私の髪を見てた……?
「その子を見た日は、いつもよりうまく歌えるような、気がして」
気がして……?
「……うん。そんなことが、あるんだ」
そして圭吾さんは、頭をかいた。
どういう意味?
その言葉を、私はどう解釈したらいいの?
でも、問いかけられないまま。
圭吾さんは硬く笑って、別れを切り出した。
「じゃあ、また」
また、があるんだ。
ほんのりあたたまっていく胸に手を当て、「さよなら」を告げた。
夕日に染まる大きな背中を見送ったあとに気がつく。
満たされている、この感じ。
私はまた、無意識のうちに彼の声を食べていた。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
でも、我慢できない。
彼のすべてに、私は抗えない。