「ここで大丈夫です」
いつもの駅で降り、聖地の入り口に差しかかったところで、私は圭吾さんに言った。
「体は、平気?」
「はい」
じゃあ、これで……と、別れるのかと思った。
それなのに、圭吾さんは聖地の中へと歩き出した。
「あの……お家、この辺りなんですか?」
「いや、俺の家は、トワさんのライブハウスの近く」
だったら、どうして?
訳も分からずついて行くと、圭吾さんはこの前のベンチの所で立ち止まり、おもむろに指差した。
「あの、一番高いビルの右隣にある建物」
見れば、公園の周囲に植えられた背の高い木々の向こうに、窓の少ない建物がある。
「あそこで、いつも練習してるんだ」
綾乃がいつか言ってたスタジオ。
気になってたけど、あんなところにあったんだ。
「休憩してるとき、この公園を眺めてると……」
少し言葉が途切れて。
「髪の長い女の子を、見かけることがあって」