やっぱり、映画には集中できずじまいだった。
でも唯一救いだったのは、その映画が女性ボーカルグループの成功を描いたものだったこと。
主要キャストに男性が少なかったから、なんとか音源は無事だと思う。
ほっとしたら、それまでの緊張の反動で、どっと疲れが襲ってきた。
「体、きついの?」
映画館を出てすぐに、圭吾さんは無表情で言った。
帰れよ、って言ったときに似てる瞳。
「大丈夫です」
恐くなって平気な顔を作ってみたけれど、圭吾さんは。
「無理しなくていいよ。送ってく」
と、駅へ歩き出した。
今度は、私の横に並んで、ゆっくりと。
見上げると、相変わらず彼の表情は読めない。
でも、行動は優しい。
この前の居酒屋でも、綾乃さえ気づいていなかった私の変化に、圭吾さんは気づいてくれていた。
不器用な人、なのかもしれない。
怯えてばかりじゃ、彼の本当の優しさに気づけない。
会話のない帰り道。
自分のことばかりじゃダメだって、気づける人になりたいって、強く思った。