「早い反応!さすが圭吾くん!」
メールを開いたとたん、綾乃に携帯を奪われた。
「やだ、私より先に読まないでよ……」
慌てて手を伸ばしたけれど、取り返そうとするまでもなく、携帯は静かにテーブルに置かれた。
その反応が不安で、おそるおそるディスプレイの文字を確認すると。
『アドレス登録お願いします。圭吾』
「なんなの、この素っ気なさ!じれったい!」
地団太を踏む綾乃を、私とママは、ただ目を丸くして眺める。
「今すぐとっちめてやるんだから!」
一体何に駆り立てられているのか、綾乃は悶えながら別れのあいさつもそぞろに我が家を後にし、スタジオへと消えていった。
「すぐに返信するのよ!
そのときに必ず電話番号を聞くように!」
という命令を置き土産にして。
綾乃が去って、リビングは嵐の後みたいに静まり返った。
「ねえ、彼氏?彼氏なの?」
ひやかす気満々のママ。
「……知らない」
私は恥ずかしくて、顔を上げられなかった。