私と綾乃は、いとこ同士。
物心ついた頃から、いつも一緒にいる。
臆病な私は、ほんの些細なことですぐに泣いてしまう子供だった。
そんな私のことを、綾乃はいつも守ってくれていた。
まるで仲のいい姉妹のような関係。
それは私達が高校生になっても変わらなかった。
でも、いつまでも変わらないままではいられない。
綾乃は、いつしか大きな夢を手に入れていた。
「プロのミュージシャンになるの!」
音楽家の両親を持つ綾乃にとって、それは自然なことだったのかもしれない。
私は、心から応援しようと思った。
けれど綾乃が音楽を志すということは、ずっと一緒に歩いてきた私達が道を分かつということ。
その事実を突きつけられたとき、私は目の前が真っ暗になった。
気づけば私は、一人では何もできなかった。
くじけそうになっても倒れずにいられたのは、いつだって綾乃がいてくれたから。
私の進路希望調査のプリントは、いつも白紙だった。
だから、綾乃が突然地元の私立大学に進学すると決めたときは、驚いたけれど、ほっとした。
私が迷わず綾乃と同じ大学に進むことにしたのは、言うまでもない。
無事に試験に合格した私達は、今日、入学式を迎えたのだった。
講堂の中は、晴れやかな空気に満ちている。
でも私は、そんな真新しい雰囲気の中でも正しく希望を見出せない。
このまま綾乃に頼ってばかりじゃダメ。
それは、ずっと胸の中にある。
とは言っても、長年培ってきた臆病を振り払うのは簡単じゃない。
誰にも気づかれない小さなため息を、私はずっと繰り返していた。