「昨日は、ごめん」
はっとして隣を見れば、背中を丸め、大きな体を小さくして、圭吾さんが私に頭を下げていた。
「そんな、あの……頭、上げてくださ……!」
「ほんと、ごめん」
まったくの予想外。
言葉の意味を、私は取り違っていたんだ。
嫌われたわけじゃなかったことに、心の底から安心した。
そして、気遣ってくれた彼を勘違いし、頭を下げさせてしまったことを申し訳なく思う。
「なんか情けないな」
やっと頭を上げてくれた圭吾さんは、苦笑いを浮かべていた。
その声が、あまりに無防備だったから、思わず口に入れてしまいそうになって……かろうじて我慢する。
「綾乃に怒られたよ。
自分が思ってる以上に、言葉にしないと伝わらないんだって」
ああ、思い浮かぶ。
両手を腰に当ててお説教する、いとこの姿。
「でも、歌を伝える自信だけはあるんだ。
それで食って行こうって、決めてるくらいだし」
とたんに空気が変わって、私は息を飲む。
昨日と同じ澄んだ瞳に、光が宿るのを見た。
「だから、また、俺の歌、聴きにきてほしい」
とらえられた私は、うなずかずには、いられなかった。