「えっと、沙妃ちゃん、だよね」


名前を呼ばれた。


その瞬間、あんなに後悔したのに、体の奥から抗いようのない欲が湧き上がってきた。




食べたくて、たまらない。




でも、絶対にダメだ。


帰れば、と言った彼を思い出す。


私は手で口を押さえて、うつむいた。




「あの……そんな、警戒しないでほしい、と言うか。

突然だし、悪いのは俺なんだけど……」


「……ごめんなさい……」


「いや、なんで、そうじゃなくて……

まあ、ちょっと……話が、したいんだけど」


「……話?」


顔色をうかがいたいけれど、視線だけ上げてみても背の高い圭吾さんの顔を見ることはできない。


「ここじゃ、あれだし、向かいの公園にでも」


思い切って顔を上げると、彼は困ったように頭をかいていた。