外に出ると、あの『聖地』の近くだった。
こんな場所に居酒屋があったなんて、知らなかった。
それは私が物を食べられないせいで、そのせいで臆病になって、そのせいで今日だって……
体が震える。
夜の闇の中、私は足をもつれさせながら夢中で走った。
「沙妃ちゃん、おかえりなさ……
まあ、どうしたの?そんなに息を切らして」
帰りが遅くなったせいか、ママが玄関先で心配そうに待っていた。
「こんな暗い中を一人でうろうろしちゃ危ないでしょう」
「ごめんなさい……」
「パパも、沙妃ちゃんのこと心配してるわよ」
「……パパ?」
心臓が大きく脈打った。
パパは仕事柄、毎日帰りが遅い。
だから私はいつも、パパが帰ってくる前に自分の部屋へ逃げこんでいた。
顔を合わせるなんて、とてもできないから。……
でも、今日は私のほうが帰りが遅かったんだ。
「パパと会うの、久しぶりでしょう?
たまには元気な顔を見せてあげて。きっとパパも喜ぶわ」
喜ぶ?
そんなわけない。
恩を仇で返すみたいに、声を奪った娘の顔なんて、見たくもないはずだよ。
そして、今日は特別に、パパに合わせる顔がない。