全員が腰を下ろしたところで、いよいよ綾乃が注文を取り始める。
「とりあえず、みんなビール?」
「偉そうに仕切ってるけど、未成年はジュースだからな」
ショウさんに横槍を入れられて、綾乃は「分かってますよーだ!」と舌を出した。
みんな、盛り上がってる。
せっかくのこの空気を、台無しにしちゃいけない。
でも、私は何も食べられない。
ほんとに、どうしよう……
飲み物は、あっという間に運ばれてきた。
「はい、これは綾乃ちゃんと沙妃ちゃんの分」
二杯のオレンジジュースが、綾乃の元へ差し出される。
「ありがとうござ……」
それを受け取ろうとして、やっと思い出してくれたらしい。
「ごめん沙妃、忘れてた!」
綾乃は慌てて振り向き、手を握ってきた。
「綾乃、どうしよう私……」
知らず知らずのうちに震えていたこの手に、綾乃は明らかに傷ついていた。
「じゃあ、そろそろ!」
私たちの変化が気づかれないまま、乾杯の音頭が始まろうとした、そのとき。
「ちょっと」
思いがけない声に、全員が動きを止めた。
視線の集まる先にいたのは、彼……圭吾さん。
圭吾さんは、向かいの席からまっすぐに私を見て、言った。
「帰れば」
静まり返るお座敷。
あんなに待ち望んでいた声なのに、口に入れることができなかった。
それどころか、耳に入れることさえしたくなかった。
「あ、あのね、実は沙妃は……」
「いいよ綾乃」
私が笑えないから。
うまく話せないから。
私が、こんな風だから……
「ごめんなさい」
綾乃の手も振り切って、私はお座敷を飛び出した。