すべては一瞬の光の矢のようだった。
割れんばかりの拍手と歓声に包まれ、メンバーは手を振りながらステージを後にしていった。
「大丈夫?」
隣にいた男性に肩を叩かれて、目が覚めた。
「な、すごかっただろ?」
男性がもはや苦笑いしているのにも気づかないで、私は呆けたまま頷いた。
ボーカルが歌い始めてからの記憶が、ほとんどない。
ただ、全身が幸せに満ちている。
それは、長い間忘れていた満腹感。
食べずにいられなかった。
今までいろんなストリートミュージシャンの歌声を食べてきたけれど、こんなことは初めてだった。
感情の生きた歌だった。
色のついた声だった。
それは今も体の中できらめいていて、涙が出そう。……
観客はライブの余韻に後ろ髪を引かれつつ、日常に戻るため出口へ向かい始めた。
「君は帰っちゃダメだよ。ついておいで」
夢見心地の私は操り人形のように、何の警戒もなく彼の後に続いた。