廊下を数歩進んだ先、重そうなドアの開け放たれた向こう側が会場になっていた。


そこは学校の教室ほどの広さしかなく、想像よりずっと狭い。


その中でうごめいている大勢の人々は、まるでひとつの大きな生き物のよう。


私はめまいがして、入り口のすぐ脇の壁にもたれかかった。




ステージが近い。


落とされた照明の下、楽器を運びこみセッティングしている人影が、はっきりと見える。


そのとき、誰かがメンバーの名前を呼んだらしい。


ステージ上の人影がひらりと手を振り、悲鳴にも似た歓声が起こった。


誰もがステージへ押し迫ろうとするから、密着していたはずの壁と最後尾の観客との間にスペースができていく。


ここにいる全員が、次のバンドの登場を待ち望んでいる。


こんな場所で、こんなにたくさんの人の前で、綾乃は演奏するんだ。……


むせるほどの熱っぽい雰囲気に、私はただ圧倒されていた。




だから、肩が触れそうなほどの真横に男性がいると気づいたときには、驚きのあまり体が瞬間冷凍されたように強ばった。


いつから、そこにいたのだろう。


ピアスだらけの耳、肩まで伸びた無造作な髪、黒いタンクトップからむき出しの筋肉質な腕は、ゆったりと組まれている。


一見しただけでは二十代後半、でも漂うこの貫禄は、とうてい若者の手に届かない。


彼の重ねてきた年齢は、思いの外、多そうだった。