昔から、新しい環境に放りこまれるのは四月と決まっている。
世の中は、そういう仕組みになっているから。
そんな四月がくる度に、引っこみ思案の私は途方もない苦痛と緊張を味わわされてきた。
慣れない場所、知らない人、新しいルール……
不安に揉まれ疲れ果て、憂鬱に打ちのめされている、そのとき。
いつも視界を強烈に襲うのは、咲き乱れ舞い散る桜の花。
私にとって桜は、四月の恐怖の象徴だった。
そうして怯える私を陰とするならば、私の隣を歩いているのは、陽の典型。
「見て、沙妃!すごく綺麗!」
綾乃は、高い位置でくくったポニーテールを揺らして、降ってくる花びらに手を伸ばす。
そのすらりとした手足、華やかな顔立ちは、人を惹きつけて止まない。
私は、どうしようもなく不安になる。
きっと綾乃には、これからいろんな出会いが降りそそぐ。
そうなったら、私は置いてきぼりになってしまうだろう。
私は弱くて、臆病だから。……