駅の裏通りに、そのライブハウスはあった。
多くの人を受け入れるためには小さすぎるように思われるドア。
その周りには、大量のポスターが無秩序に貼り重ねられている。
中からもれ出している、胸の奥を叩くような重低音。
人の波に飲まれてつぶされていく自分の姿がよぎって足がすくむ。
そのとき、立ち尽くしている私の横を、二人の女の子が駆けて行った。
「早くしないと、ライブ始まっちゃってるよ!」
ライブハウスの中へ消えた彼女達の背中を見送る。
綾乃にもらったチケットをバッグから取り出し、それを見つめてみた。
音楽を聴くために、あんなにも息を切らして駆けつける人がいる。
そう、ここは楽しむための場所。
恐いことなんて、ないんだ。
そう言い聞かすと、少し心が軽くなったような気がした。
中からもれていた音が止んだ。
もうすぐ綾乃達の演奏が始まる。
両手をきつく握り締め、私はライブハウスへと足を踏み入れた。