我が家の最寄り駅から、大学へ向かうのとは逆の電車に乗り、三十分ほど。
私は、初めての駅へ降り立った……早くも帰りたい衝動を押し殺して。
約束はしたものの、あれからの日々は緊張と不安に沈んでいた。
ライブハウスといえば、人があふれ返っていて、揉みくちゃにされそうなイメージ。
「私達はパンクバンドじゃないんだから、そこまでないって」
それでも安心できない私に、綾乃は教えてくれた。
「今回は全部で三組のバンドが参加するの。
私達の出番は最後だから、そうだな……八時くらいにおいでよ。
それなら開演時の混雑に遭わないで済むし、バンドが交代する前後は結構出入りがあるから悪目立ちすることもないだろうし。
一番後ろの出入り口の辺りにいれば大丈夫よ」
綾乃の提案通り、私は遅めに出発した。
もうすでにライブは始まっている時間。
駅を出ると、街はすっかり夜に染まって、ネオンに彩られている。
私は、こんな時間に外を歩いたことが、ほとんどなかった。
緊張のあまり、地面の感触が分からないほど足が強ばっている。
雲の上を歩いているように現実味がない。
綾乃が待ってくれていることだけを励みに、崩れ落ちそうな正気をつなぎ止めながら、足を前へ前へと押し出していった。