そのとき、ふと昨日の川崎先生の言葉がよみがえってきた。
『もっと食って、笑え。
閉じこもってないで、外に出ろ』
そういえば、私のとっさの考えはいつもひどく保守的で。
臆病な自分の意見を押し通して、今までやってきた。
ほんとは、ずっと変わりたいと思っていたじゃない。
恐いけれど。
とても、とても恐いけれど。
これは綾乃がくれたチャンスかもしれない。
「やっぱり嫌?」
綾乃が遠慮がちに問う。
本気で嫌がる私に、これ以上無理強いするつもりはないみたい。
きっとこれが最後の確認。
「……行ってみる」
「え?」
「……ライブ、行ってみる」
私は打ちつけてくる心臓を押さえつつ、不安を振り払ってまっすぐに綾乃の目を見た。
「うそ、ほんとに?すごいよ沙妃!ありがとう!」
綾乃が勢いよく抱きついてきた。
ほめられた私は照れ臭くて、そわそわ落ち着かなくて、でも、とびきり嬉しくなった。