圧倒的に苦しみのほうが多い人生を歩んできたと思っていたのに、こんなふうになってみる夢は、決まって幸せな思い出のリフレインばかりだから不思議だ。
横山のおじさまの家で、生まれて初めて天体望遠鏡から星を見たこと。
パパとママと一緒にピクニックへ行ったこと。
綾乃と私、二人とも初めてのテスト百点を取って、手をつないで誇らしげに帰ったこと。
そして、圭吾さんと出会ったこと。
圭吾さんの歌声。
あたたかくて大きな手。
綺麗な横顔。
プラネタリウムでの約束。
海辺でのキス。
楽しかったな。
暗闇にいた私が、こんな気持ちを知ることができた。
圭吾さんは、光だった。
私に触れて、あたためてくれる、そんなところは太陽みたいで。
そっと寄り添って、言葉はなくとも切ない安らぎをくれる、そんなところは月みたいだった。
「圭吾、さん……」
自分のもらした声で現実に戻ると、いつからだろう、そこには綾乃がいた。
握られている手は温度を分かち合い馴染んでいるから、ずっと前から傍にいてくれていたのかもしれない。
「沙妃……」
綾乃の瞳は切羽詰まっていて、物言いたげに揺れている。
どうしたんだろう。
「なあに?」
尋ねると、瞬間、泣く寸前の子供みたいにふにゃ、と口角が下がった気がした。
でも、すぐにいつもどおり笑ってくれたから、私は安心して、眠気に誘われるままに再びまぶたを下ろしたのだった。