結局、パパが私の乗る車椅子を押して外へ出てしまっても、ママは現れなかった。
何か用事があるのかもしれない。
だからパパは私を食事へ連れて行くように言いつけられて、仕方なく今こうしているんだろう。
そう思うことにする。
無言の散歩。
当たり前だ、パパは声が出せない。
私のせいで。
その私も、もうあまり話せなくなってきている。
だけど、こうして車椅子の低い視点から景色を見ていると、小さな頃を思い出す。
パパのことが大好きだった、元気で無邪気な私。
ちょっと変わった体質の娘を、心から愛してくれていたパパ。
二人、よく手をつないで歩いていた。
ただの、でもかけがえのない、家族。
とても、とても幸せだった。
それを私は、壊してしまったんだ。
振り返れば、私、ちっともいい娘じゃなかった。
パパの声を奪って、悲しませて、人生をめちゃくちゃにして、迷惑ばかりかけて。
そのあとだって、私はパパから逃げ続けた。
パパが何も話せないのをいいことに、パパが本当は何を思っているのか、知ろうとしなかった。
常に罪の意識にさいなまれていても、パパの気持ちを、直接の罰を、私は受け止めようとしなかったんだ。