「さあ、沙妃ちゃん。ご飯食べに行きましょ」
ママの声を聞いて、今が夕方なのだと知る。
天井に貼ってある星座表を見ていた私は、小さくあくびをすると、ゆっくりと体を起こした。
自力で動くことが難しくなってからというもの、一日に一度、ママが食事に連れて行ってくれている。
ママにおぶってもらって一階に降りると、玄関で車椅子に乗って、それを押してもらい聖地へ向かうのだ。
まだ寒さが厳しいので、私はいつもニット帽やらマフラーやらダウンジャケットで、まるで雪だるまみたいにさせられる。
それは、痩せ細った体を気する私への、ママの無言の配慮でもあった。
毎日定時に訪れる車椅子の私は、ちょっとした話題になっているらしい。
聖地につくと、ストリートミュージシャン達から次々と声をかけられるようになった。
彼らはみんな優しくて、ママのフォローなしじゃ伝わらないほど小さな私の声にも、真剣に耳を傾けてくれる。
私を元気づけようと、懸命に歌ってくれたりもする。
聖地で過ごす時間は、とてもやわらかくてあたたかい。
それが私にとって、どれだけの支えになったことか。
でも、どんなに頑張っても、この体は彼らの声をほとんど受けつけなかった。
飲みこむ力がなくなっていくのを、私は日ごとに感じていた。