「……沙妃ちゃん……沙妃ちゃん」
呼びかけられて意識を取り戻すと、一番に飛びこんできたのはママの悲痛な顔だった。
私が今横になっているのは、間違いなく下宿の部屋の中。
それなのに、どうしてママがここにいるんだろう。
「今朝、沙妃ちゃんが倒れたって連絡があって……」
倒れた?
思い出そうとしても、うまく頭が働かない。
「だからママ達、急いで駆けつけたのよ」
そうママが言い終わらないうちに、空気を震わす怒声が響いた。
「どうしてこんなに痩せているんだ!」
まるで聞き覚えのない声だったけれど、めぐらせた視線の先には、川崎先生の姿があった。
信じられない。
あの、いつも締まらない川崎先生が、こんなにも恐い顔で、声で、怒ることがあるなんて。
そして、その怒りの矛先には横山のおじさまがいた。