「あそこですよ」
横山のおじさまが促した先には、色とりどりの積み木でできているような建物が並んでいた。
筒のようなもの、三角屋根のもの、真四角のもの、ドーム状のもの……
車の窓から見えるそれらは、レジャー施設を兼ね備えているだけあって、目にも楽しい造りになっている。
山道に入って一時間弱でたどり着いた研究所は、市街地から遠すぎず、なおかつ天体観測の妨げになる人工的な光の届かない絶妙な場所にあった。
年が明け、三が日も終わり、残り少ない冬休みを満喫しつくすため、多くの親子連れで施設はにぎわっているようだ。
「さっそく中を案内してあげたいのですが、まずは荷物を置いてからにしましょう。
ささやかではありますが、沙妃さんのお部屋が用意してありますから」
おじさまはハンドルを切ると、大きな門をくぐって駐車場とは反対方向へと車を走らて行く。
カラフルな施設の脇をすぎると、血を抜いたように白い建物が忽然と現れた。
雰囲気は一変し、静けさや生真面目さが漂い始める。
「この辺りは専門家達のスペースになっています。
そして、あの奥に見えてきたのが下宿です。
施設が雇っている短期労働者の方々の仮住まいなんですよ」
近づいてきたのは、三階建ての、お世辞にも立派とはいえないアパートだった。
この敷地と森の境界、というよりほとんど森に飲みこまれるようにして建っている。
車は階段の傍へ横づけされて停まり、私はシートベルトを外した。
ドアを開けると、冷え切った透んだ空気が肺に流れこんでくる。
街中とは違う、体を芯から浄化してくれるような純度。
それは空と私の間に邪魔物が少ないということ。
「星が、よく見えそう」
突き抜けるような高い空を見上げてつぶやくと、おじさまは微笑んだ。