「弱ってる……?」
「さっぱり分からねえんだよ。
だいたいお前の体は謎だらけだからな。
普通の人間じゃ発症しえない未知の病かもしれねえ。
そもそも薬を使えないんだ、医者は手の出しようがない。
点滴とかを試してもいいが、結果、物質を受け入れないお前の体がどうなるかは神のみぞ知るってヤツだ」
それは、分かっている。
私は昔から、風邪を引いて高熱にうなされていても安静にしているしかなかった。
そんなときパパや川崎先生は、医師でありながら何もできないことを悔やんでいて。
それを、私はいつも申し訳なく思っていた。
深い沈黙が垂れこめる。
「……いや、何かを決めつけるのは、まだ早い」
川崎先生が、言い聞かせるように言葉を並べ始めた。
「さっきも言ったが、体が弱っているとしか、今の段階では判断できないんだ。
もっと詳しいことは精密検査をしねえと分からんだろうし。
ただ、今は安静にしていたほうがいいってのは間違いない、それだけだ」
しかし、ここから川崎先生の声は弱くなる。
「だが、もし……これはあくまで、もしもの話だ。
何の病気も見つからなくて、ただ弱っていくのだとしたら……
それは、もしかしたら、もともと声を食べるという栄養の摂取方法そのものが、人間の体には無理なことだった、ということなのかもしれん」
目を伏せ続けていた川崎先生が、苦汁を飲んだように顔をしかめながら私の目をまっすぐに見つめ、言った。
「沙妃の前で、俺は、医学は、とことん無力だ」