その日も夕方からバイトが入っていた。


研究所へ行っている間ずっと休ませてもらうことはできないから、残念だけど今年いっぱいで私はこの雑貨屋を辞めることにした。


店長はとても優しくて、研究所から帰ってきたら戻っておいで、と言ってくれた。


バイト仲間もみんな、私のこれからを応援してくれている。


ここで働ける時間は残り少ないけれど、みんなの気持ちに報いるため、一生懸命働こうと思う。




店内の清掃を終えた私は、次の業務である商品在庫の確認に取りかかった。


「えっと、このクッションは……」


ファイルを片手に陳列棚の足元にある引き戸の中を探していると、


「あ、その一覧にある商品ならバックルームの棚の上にしまってあったはずよ」


と、先輩からアドバイス。


「ありがとうございます、そっちを見てみます」


さっそくバックルームを覗いてみると、お目当てのクッションは私がどんなに手を伸ばしても届かない上のほうの棚に眠っているようだった。


高いのは苦手なんだけど……


「お仕事だもん、やらなくちゃ」


私は用具入れから脚立を持ち出してきて、おそるおそる足をかけた。


足元を確認しつつ、三段登ったところで、思い切って棚を見上げる。


もう少しで届きそう。……


棚の取っ手に手が触れようとした、そのときだった。




鼓膜を叩くような心音。


視界が白んでいく。


これは、この前電車の中で襲われたのと同じ感覚……




体が傾いていくのが分かる。


「沙妃ちゃん!」


先輩の悲鳴を遠くに聞きながら、私は床に体が叩きつけられる衝撃に気を失った。