「……というわけで、年が明けたら一か月くらい、一般交流施設を兼ね備えた研究所で勉強させてもらうことになったの」


そう告げると綾乃は、ほほう、と感心し、興味津々とばかりに食いついてきた。


「研究所なんて、すごいじゃない!

ねえねえ、ところで一般交流施設って何?」


「プラネタリウム……」


と言ったところで、よぎる思い出に切なくなる胸を押し殺した。


情けないと思う暇さえ自分に与えたくなくて、私は続ける。


「……とか、高性能の天体望遠鏡の解放とか。

きちんとした研究所にそういう施設が備わってて、一般の人が自由に出入りできるのは珍しいんだよ」


「へえ、カッコイイ!ほんとに本格的なのね」


「そうなの。半端な気持ちじゃ望めないから、今からしっかり準備してるんだ。

大変だけど、すごく充実してるの」


「よかったね」


綾乃の柔らかい微笑みに、心から祝福してくれているのが伝わってくる。


私もつられて微笑みながら言った。


「綾乃も、軌道に乗ってきてるんでしょ?」




『Sir.juke』と離れてからの綾乃は、新しく出会ったバンドのサポートを務めながら、シンガーソングライターとして動き出していた。


自分の音楽を模索しつつ、協調性も磨いて、いつの日か必ず語り継がれる名曲を生み出してみせるのだそう。


果てしないけれど、それは綾乃にとって夢物語ではなくて、現実の目標なのだ。


まあね、と笑う綾乃の瞳には、慢心はない。


私も負けないように目標へつながる糸をしっかりたぐり寄せていかなきゃ。