驚いていたおじさまも、大好きな星のこととなるとスイッチが入るのは早い。
いつのまにか妙な雰囲気は消えて、私の質問に充分すぎて余りある答えを返してくれるようになった。
その中でも、海外での体験談は特別に私の心を惹きつけた。
空気の澄み切った高山にそびえ立つ天文台の雄壮な姿。
巨大な望遠鏡のレンズの維持の大変さ。
試行錯誤の日々、新たな発見の喜び。……
すべてが夢のように思い描かれる。
その夢に浸りきっていたい。
でも、どうしても彼のことが、どこかで拭い切れない。
「そういえば、沙妃さんは昔から星が好きでしたね」
「はい、とても」
前に進むと決めたのに。
振り向いちゃいけないのに。
早く、忘れてしまいたい。
汚い思いが、体の中でぐるぐる渦巻いている。
気づけば、それを振り払うように身を乗り出していた。
「私、星の勉強がしたいんです。
星に携わる仕事がしたいんです!」