「だって、さ。
あたしだって、あんなに内にこもってた沙妃が社交的になって、嬉しいよ。
ほんとに嬉しい。
でも、あたしは沙妃のこと、ずっと守ってきたつもりだった。
あたしがいないと一人じゃ何もできなかったじゃない。
それなのに、突然髪の毛ばっさり切ったり、バイト始めたり。
沙妃が自分の意志で歩き始めたのを見てると、ちょっと、ね。
ああ、もうあたしの力がなくても、沙妃は一人で生きていけるんだ、って。
巣立ってくヒナを見てるような……複雑な心境なわけよ」
口をとがらせて、ぽつぽつもらすその姿は、いじらしい。
「私は、いつだって、どうなったって、綾乃が必要だよ」
これが紛れもない私の本心。
綾乃がいろんな世界を見せてくれたから、今の私がある。
綾乃の支えがあると思うから、これからも頑張れる。
「ただ、今まで頼りすぎてたから、人並みにはなりたいの」
でも綾乃の口は、とがったまま。
「なんだか余裕ね」
そっぽを向いて、目も合わせてくれない。
「……どうしたの、綾乃?」
「知らない世界に飛びこんで、毎日充実してるみたいね。
自分では気づいてないかもしれないけど、迷惑なくらい一人でキラキラしちゃってさ」
そして、きっ、と睨まれる。
「圭吾くんとは、どうなったのよ」