電車を降りて、家路を急ぐ。
陽が落ちるのが早くなってきた。
足を踏み入れた『聖地』は、夕陽に照らされてオレンジ色に染まっている。
感傷の色だ。
壊れた心を、いっそう痛めつける色。
今日も、たくさんのストリートミュージシャン達が歌っている。
夢に満ちた、希望の歌声。
だけど、それは圭吾さんのものじゃない。
それだけで、すべては意味を持たない。
これからは、それ無しでも生きていかなきゃいけないんだ。
その現実は体を引き裂かれるよりずっと痛い。
泣きたくない。
でも価値の見出せない歌が寂しすぎて、涙があふれる。
我慢していた分、止まらない。
体の中、圭吾さんの告白が温かくて、ここまできても気持ちが揺れる。
諦めなきゃいけない。
私は人影のない公園の隅へ駆けていき、木陰で喉に指を突っこんだ。
胃がひっくり返り、口からこぼれたのは、半ば消化されて呂律の回らなくなった『好きだ』の声。
それと一緒に、彼への想いも捨てなくちゃ。
草むらに溶けていくそれを看取る。
涙は、ますますあふれて止まらない。